1989年3月31日(金)放送
出演
田中邦衛・吉岡秀隆・中嶋朋子・緒方直人・横山めぐみ・美保純・洞口依子・清水まゆみ・布施博・庄司照枝・樋浦勉・村井国夫・ガッツ石松・井川比佐志・古本新之輔・永堀剛敏・南雲勇助・矢野泰二・水上功治・大場朋之・久保晶・今野照子・五月晴子・宮城健太郎・渕野俊太・水木寛子・中沢敦子・木村翠・芦沢孝子・岩城正剛・小林秀治・舛井正博・松永ヒサ子・麓郷小学校のみなさん・佐久間哲・桂島宏樹・鶴田史郎・田中基・黒島かおる・きゃんみゆき・小河麻衣子・大倉順憲・安威宗治・菊川予市・児玉頼信・三田恵子・地井武男・岩城滉一・竹下景子

 五郎は富良野の街の飲み屋で中畑と酒を飲んでいた。東京に行っている息子の純が送ってきた金で飲んでると大声でしゃべり、娘の蛍が旭川の看護婦学校へ通っていると自慢げに話していた。ただ、旭川の病院に住み込みになってしまったことへの寂しさを紛らわしているようでもあった。

 1988年秋・・・・・・

今日も、蛍は旭川の病院へ出勤するために五郎の車で富良野の駅へ送ってもらった。蛍は、中学を卒業してから昼間は旭川の病院に勤め、夜定時制の看護学校に通っていたのだった。そのため、毎日富良野駅発6時02分の始発列車に乗らなくてはならなかった。
蛍は、列車でいつも一緒になる青年にこころがひかれていた。その日、青年の膝の上の本が落ちそうになったとき、彼が「風の又三郎」という小説が読んでいることを知る。
旭川の駅に列車が着くと、蛍は病院へ走った。蛍が勤める病院は、「竹内病院」という肛門科の病院だった。先生は、五郎からカボチャを送ってもらったお礼を蛍に言った。
 五郎は、中畑に丸太小屋をつくるための丸太を頼んでいた。五郎は、今度は一人で丸太小屋をつくるつもりでいたのだった。設計図には、3人分の部屋があった。
 蛍は、書店で注文してあった宮沢賢治の「風の又三郎」受け取り、帰りの列車で青年が読んでいる姿を見て、自分も袋のポケットから取り出し読み始めた。富良野駅に着くと青年が自転車に乗って帰っていく姿を見送り、五郎の待つ車へ向かった。五郎は、車の中で眠っており、蛍に車の窓をたたかれ目を覚ます。
 その晩、蛍は五郎に来年から住み込みになるからと告げるが、五郎は風呂の中で眠ってしまった。
 翌朝も、蛍は青年と一緒の列車で互いに「風の又三郎」を読んでいた。その日、蛍の勤める「竹内病院」へその青年が治療のために現れる。そこで、初めて青年の名前が「和久井勇次」と知る。
 その日の帰り、旭川の駅のホームで再び勇次と会い、富良野までの列車の中で蛍は勇次が予備校へ通う浪人生であることを知る。富良野駅に着くと、蛍は勇次に自分の赤い傘を貸し、手を振って勇次と別れた。五郎は、その光景を電話ボックスの中で見てしまう。五郎は、風呂に入りながらそのことが気になってしかたがなかった。風呂から上がると流しにサンドウィッチを見つけるが、蛍が二階から降りてきてサンドウィッチを隠すように持って二階へ駆け上がっていった。ラジオからは長渕剛の「乾杯」が流れていた。次の朝、蛍は昨夜つくったサンドウィッチを勇次と二人で列車の中で食べた。
 ある日の帰り、列車に勇次の叔母が乗ってきた。叔母は、勇次に東京の予備校へ行くように勧める。帰りの車の中で五郎は次の日曜日にマイタケ採りに蛍を誘うが、蛍は断る。蛍は、次の日曜日に勇次と約束があったのだった。
 次の日曜日、蛍と勇次は勇次の生まれた滝里という村へ出かけた。そこで、勇次が東京へ出ることを知らされる。勇次は、ずっと富良野にいたいと言い、木にナイフで「HY」と彫った。その夜、蛍は五郎に来年から旭川に住み込むことを伝えた。
 そして、蛍は6ヶ月の実習を終え、戴帽式があった。五郎は、出席できなかった。
 蛍は、純に手紙を書いた・・・・・・

 今日、純は髪を染めた。これで、正月はまた帰れないと思っていた。
 その日、友人のアカマンに誘われ、喫茶店に出かけた。そこには、エリと田沢がいた。そして、純が前からほしがっていた400ccのバイクを譲るという話を聞かされ、純は正月富良野に帰るために貯めた金で買うことにした。
 ある日の昼休み、純はアカマンとバイクの話をしていた。そのとき、アカマンが水谷に呼ばれた。アカマンは「まずい・・・」と言って、水谷の所へ行った。そのことがあってから、アカマンの様子がおかしくなった。学校が終わって帰るとき、純はアカマンを誘うが断って、バイクで走り去った。純がアカマンを追いかけようとするとエリが待っていた。純はエリに誘惑されるが、エリがボートから落ち純はその場から逃げてしまう。純は、エリの兄が暴走族の幹部でヤクザにもつながりのある人と聞いていたため、その夜ほとんど一睡もできなかった。翌日、一日中生きたここちができなかった。夜、定時制の学校へ行くとアカマンは来ていなかった。純は、帰りにアカマンのアパートへ寄った。そこで、アカマンが母親の病気のために水谷に10万円の借金をし、それが半年で20万円になってしまったことを知らされる。そして、沖縄に残してきた父親を一人にしておけないからもしかしたら沖縄へ帰るかもしれないと言った。純は、その言葉が胸に突き刺さった。
 翌日の昼休みに田沢が現れ、12万円でバイクを買うことになった。ところが、純が田沢から買ったバイクが盗難車であったことで、警察に連れて行かれることになった。長い時間取り調べがあり、無実が証明されて解放されたのは、夜の11時を過ぎてからだった。翌日、アカマンから水谷がバイクの件で警察に呼ばれたことで頭に来ていると聞かされ、謝りに更衣室へ行くが、無視される部屋から出ていった。純は、自分のロッカーを開けると財布が落ちていた、中に入れてあった泥の付いたピン札2枚が無くなっていることに気づき、水谷たちに聞くが知らないと言われ、更衣室のロッカーを片っ端から開け始める。そんな純を見て、アカマンが自分がとったと純に打ち明けた。アカマンは、水谷に借金を催促され、それで純の金をとったと言った。純は、水谷にその金を返してもらうように頼むが、水谷は知らないと言って部屋を出ていった。純は、水谷を追いかけて3万円払うから返してほしいと言ったが、水谷は持っていてもやるものかと言って純を殴りつけた。純は、近くにあったバールをもって水谷に殴りかかりケガをさせてしまう。
 純は、エリに喫茶店に呼び出され、一枚の泥の付いたピン札を渡される。それは、水谷のロッカーのジャンパーのポケットにあったものだった。もう一枚は、この近くの薬屋でつかったらしいことをエリは教えてくれ、一緒に探すと言ってくれた。
 純は、このことがあってから東京に出てから富良野へ帰りたいと初めてそう思った。

 丸太の皮をはがしている五郎の所へ警察の人がやってきた。そして、五郎は純が東京で傷害事件を起こしたことを知らされる。その夜、五郎は蛍を迎えに富良野へ出かけたとき、東京へ電話をかけようとしたが止めた。五郎と蛍が家へ帰ると純が東京から帰ってきていた。純は、疲れて二階でぐっすり眠っていた。五郎は、純の髪を見て、慌てて草太のところへ出かけ、寝ている草太をたたき起こし、純の様子を伝え、何とかしてもらうように頼んだ。朝方、ふと目を覚ますと、蛍が起きており、出かける準備をしていた。五郎が下から好きなだけ寝ているように言った。純は、すぐに眠りはじめ夢を見ていた。
 目が覚めると明るくなっていた。下に降りると新吉・シンジュク・クマさん・草太が来ていた。そこで、純は新吉たちに取り押さえられ、髪を黒く染めさせられてしまう。その後、純は挨拶回りに出かけるとみんながとても暖かく迎えてくれ、昔と変わらず昔のように接してくれた。中畑木材へ行った純は、五郎が丸太小屋をつくろうとしていることを知らされ、トムソン・ウッディヴィレッジの土場へ五郎に会いに行った。純は五郎に何度も「すみません」と頭を下げた。純は、五郎に丸太の皮むきを教えてもらいながら手伝った。五郎は、蛍に恋人がいることを純に教え、今夜二人で見に行く計画を話した。
 その夜、美馬牛駅から五郎と純は蛍の乗る列車に乗り込んだ。しかし、勇次の姿はそこにはなかった。富良野駅に着くと、勇次が蛍を待っていた。蛍は勇次から突然明日東京へ出ることを聞かされる。列車は、16時11分の札幌行きと・・・・・・。蛍は「わかった」言って、走って五郎の車へ向かった。車には、五郎と純が出迎えた。五郎は、帰り道で蛍を十勝岳の露天風呂に3人で行こうと誘った。その夜、蛍は勇次が明日東京へ行ってしまうから露天風呂には一緒にいけないと話した。

 翌日、勇次は富良野駅で蛍の姿を探していた。蛍は駅の片隅からガラス越しに勇次を見ていた。蛍は、ベンチにプレゼントを置いた。勇次は、ベンチの前にしゃがみ込み、それを手にし、蛍に宛てた一通の封筒をポケットから取り出し、ベンチの上に置き、立ち去った。蛍は、封筒を左手に握りしめ、待合室に走った。蛍は、ホームに立つ勇次に「がんばれ!」と口を動かした。勇次も「わかった!」と答えた。
 勇次の乗る列車がホームに入ってきた。蛍は、駅を出て線路へ向かって走り出した。そして、駅を走り出した勇次の乗ると一緒に走った。勇次は窓を開け身を乗り出して大きく手を振った。
 蛍は、勇次の手紙を封筒からとりだし、歩きながら読み始めた。

 「今朝夢見たんだ。不思議な夢なんだ。君と手をつないで、えらく透明な湖の底に潜っていくんだ。そこは、滝里のダムの底らしくて、潜っていくと村が底にある。君は僕の手をどんどん引っぱって、昔空知川が流れていた淵のそのまま沈んでいる木立の所へ行く、そうするとその木の一本の幹に二つのイニシャルの彫ってあるのがみえる。HとYって、二つの文字が誰ももう知らない湖の底の、それでも立っている一本の木の幹・・・・・HとYって彫ってある。頑張ってきます。君も頑張って・・・・・。」

 蛍は、家に帰ると二階に駆け上がり、ラジオのスイッチを入れ、声を出して泣いた。
 純は、風呂に入っている五郎に東京の傷害事件のことを話しはじめた。五郎はどうして喧嘩したか聞いた。純は、大切なものをとられたからだと言った。五郎は、それが人にケガさせるほどお前にとって大切なものならしかたがないじゃないか・・・男は、誰だって何と言われても戦わなくてはならないときがあると言った。純は、職を三回変わったと言うと、五郎は七回変わったから気にするなと言った。純は、こっちに就職して五郎と一緒に丸太小屋をつくってはいけないかと話すが、五郎は受け入れなかった。
 突然、蛍が家から飛び出してきて、純を家の中へ引っぱった。ラジオから尾崎豊の「I love you」が流れていた。それは、れいちゃんがリクエストしたものだった。
純は、1月3日札幌れいちゃんを探しに出た。リクエストの葉書を頼りにアパートを見つけるが、アルバイトに出かけており不在だった。純は、れいちゃんのアルバイト先のファミリーレストランに向かい、再会する。二人は、あの頃話した天窓のある喫茶店へ行き、東京でぼろぼろになったことや、富良野の暖かさを話し、富良野にやってきたあのころの父親のことを考えていた。駅へ向かう途中、二人とも何もしゃべらず歩いた。純は歩きながられいちゃんの腕から伝わる体温が絶え間なく自分に注がれているのを感じていた。
 それが、今年の正月の出来事だ。

 五郎は、中畑とまだ飲んでおり、純が中三で風力発電をつくったことや職をまた変わったこと、蛍が旭川の竹内先生のところで見習い看護婦をやっていることを自慢げに話しており・・・中畑も困り果て、店を出て二人で雪道をふらつきながら歩き出した。