もう一人の息子は、何となく暮らしていた。わずかな楽しみは、札幌のれいちゃんと毎週土曜日の8時に同じビデオ映画を見て、デート気分を味わうことだった。映画が終わると、電話でくだらないおしゃべりをしていた。純は、こんなつきあい方に少し飽きがきていた。
ある雨降りの日、この日もビザショップの配達用のバイクがいつもの場所に置いてあった。警察が駐車違反の取り締まりをしていたため、純はそのバイクをスタンドの中に移した。配達の女の子は、純の親切にお礼を言った。その夜、純がビデオショップでれいちゃんと見るためのビデオを借りていると、外からガラスをたたかれた。見るとそれは、今日助けたあの女の子だった。彼女は、ガラスにアリガトウと指で書き、ドアが開くと「それ、すごくいい。昨日見たの」と言って走り去った。その夜、純はビデオを見ながら泣いた。
翌日も、その子は赤いバイクで現れた。いつもの場所に止めようとするが、純がホースで手招きしてスタンドの隅に止めさせた。そんな純を見た仕事仲間は、純を冷やかした。純は、少しずつその子が気になってきていた。ある日、そのこの働いているピザショップへ出かけていった。店内を見るとその子が店長に叱られて泣いていた。その子は、店を出ると純を見つけて近寄ってきた。純は、その子に仕事が終わる時間を聞いた。
ふたりは、ラーメンを食べながら、お互いの素性を話した。その子の名前は、松田タマコとわかった。純は、れいちゃんとやっているビデオデートのことを友達のこととして話したが、タマコはロマンチックで最高だと言った。そして、今度一緒にラブホテルで映画を見ようと言い出したので、純はビックリして口の中のラーメンを思わず吹き出してしまった。
タマコと別れてから、純は生まれて初めてアダルトビデを借りて見た。
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