五郎は、蛍の通う旭川の病院へニンジンを届けがてら、蛍に電話をかけ、へそ祭りの日に富良野へ帰ってこれるかたずね、雪子と大介も来ることを話した。

 五郎は、雪子と大介を富良野駅で出迎え、中畑の事務所へ連れて行った。そこで、草太がアイコと結婚することアイコのお腹には子どもがいることを知らされ驚く。

 草太は、牛の乳を搾りながら、母正子と結婚式のことでもめていた。そこへ、アイコが五郎が来たことを伝えに来た。草太は、そこで久しぶりに雪子に再会し、喜んだ。

 その夜、五郎は雪子に急に富良野に来たいと言ったわけを聞いた。雪子は、子どもは母親の方が幸せか、父親の方が幸せかと聞かれ、驚く。そして、昔を思い出し、純はきっと恨んでいるだろうし、恐らく蛍もそうだろうと話した。雪子が、蛍はよく帰ってくるのかと聞くと、五郎は「ああ」とこたえた。

 蛍は、時々五郎とは電話で話はしたが、富良野には全然帰ってなかった。帰ってはいなかったが、富良野の駅のホームには何度かは立っていた。それは、一昨年から帯広畜産大学に通っている勇次が住んでおり、勇次に会いに富良野で帯広行きの電車に乗り換えるためだった。蛍は、改札口を出ない自分が後ろめたく、罪の意識にさいなまれていたが、電車が富良野盆地を過ぎ、狩勝峠を抜けて、帯広の町にはいるとそんな気持ちも薄らいていった。電車が帯広の駅に着くと、勇次の待つ改札口に走った。

 車に乗ると、勇次が後で大事な話があると言った。それは、28日のへそ祭りの日に、札幌の勇次の叔父が来るから会ってみないかと言うこと話しだった。勇次は、准看で終わるよりも正看を目指した方が絶対にいいと言った。しかし、蛍には、卒業後は、富良野へ帰るという五郎との約束があった。
 蛍はいつも、午後5時34分の帯広発の列車に乗った。これに乗らないと今夜の内に旭川に着けなかったからだ。列車が動き出すと、蛍はさっき勇次の言った話を思い出していた。

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