五郎は富良野の街の飲み屋で中畑と酒を飲んでいた。東京に行っている息子の純が送ってきた金で飲んでると大声でしゃべり、娘の蛍が旭川の看護婦学校へ通っていると自慢げに話していた。ただ、旭川の病院に住み込みになってしまったことへの寂しさを紛らわしているようでもあった。

 1988年秋・・・・・・

今日も、蛍は旭川の病院へ出勤するために五郎の車で富良野の駅へ送ってもらった。蛍は、中学を卒業してから昼間は旭川の病院に勤め、夜定時制の看護学校に通っていたのだった。そのため、毎日富良野駅発6時02分の始発列車に乗らなくてはならなかった。
蛍は、列車でいつも一緒になる青年にこころがひかれていた。その日、青年の膝の上の本が落ちそうになったとき、彼が「風の又三郎」という小説が読んでいることを知る。
旭川の駅に列車が着くと、蛍は病院へ走った。蛍が勤める病院は、「竹内病院」という肛門科の病院だった。先生は、五郎からカボチャを送ってもらったお礼を蛍に言った。
 五郎は、中畑に丸太小屋をつくるための丸太を頼んでいた。五郎は、今度は一人で丸太小屋をつくるつもりでいたのだった。設計図には、3人分の部屋があった。
 蛍は、書店で注文してあった宮沢賢治の「風の又三郎」受け取り、帰りの列車で青年が読んでいる姿を見て、自分も袋のポケットから取り出し読み始めた。富良野駅に着くと青年が自転車に乗って帰っていく姿を見送り、五郎の待つ車へ向かった。五郎は、車の中で眠っており、蛍に車の窓をたたかれ目を覚ます。

 その晩、蛍は五郎に来年から住み込みになるからと告げるが、五郎は風呂の中で眠ってしまった。
 翌朝も、蛍は青年と一緒の列車で互いに「風の又三郎」を読んでいた。その日、蛍の勤める「竹内病院」へその青年が治療のために現れる。そこで、初めて青年の名前が「和久井勇次」と知る。

 その日の帰り、旭川の駅のホームで再び勇次と会い、富良野までの列車の中で蛍は勇次が予備校へ通う浪人生であることを知る。富良野駅に着くと、蛍は勇次に自分の赤い傘を貸し、手を振って勇次と別れた。五郎は、その光景を電話ボックスの中で見てしまう。五郎は、風呂に入りながらそのことが気になってしかたがなかった。風呂から上がると流しにサンドウィッチを見つけるが、蛍が二階から降りてきてサンドウィッチを隠すように持って二階へ駆け上がっていった。ラジオからは長渕剛の「乾杯」が流れていた。次の朝、蛍は昨夜つくったサンドウィッチを勇次と二人で列車の中で食べた。

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