耕太郎と唯

耕太郎と唯 4

スレ 男装少女萌え【11】
No >>367〜>>370
日時 2013/06/11(火) 05:08:36
本文
卒業式を数日前に済ました俺は今日、村を出て親元に帰る。
唯にばれた次の日には村中にばれて
大人や先輩達はともかく学年下のチビ共には泣かれたりして大変だった。
一番面倒な事になりそうだった当の唯は
数日は目を合わすとそっぽ向かれたりされたが
1週間も経たないうちにいつもの唯に戻っていた。
…ように見えたのだが
俺が水高に行かないから遠くの私学の全寮制の阿比樹学校に行くと言って一波乱。
その学校の制服の購入に俺は街まで拉致されて一波乱。
まぁ試着役をしたお蔭で高校の制服はただで貰えたので助かったが。
夏以来の唯の妹の実ちゃんでまた一波乱。
実ちゃんは元気だったなぁ。どんどん女の子らしく…
「あたっ!…何をする?」
「変な事考えてたね、耕太郎」
不機嫌な顔で扇子をぷらぷらしている唯。
「だからと言って顔を叩くな」
「やっぱり変な事を!」
「逃げれない所でポカスカ叩くな!」
ここは車の内。
後部座席の運転席の後ろに唯、その左に俺が座っている。
家から駅までは距離があるのでバスで行こうとしていた時、
家の前で唯がこの車と共に待ち構えていて
押し込められるように乗せられて今に至っている。
あの量の荷物を運ばないだけでも助かるが
この黒塗りの高そうな車に乗る時はいつもこうなのはどうかと?
「最後まで悪いな、送ってもらって」
「耕太郎にはちゃんと着いてもらわないと困るから」
窓を向いて唯が答える。
婆さんと何かにこやかに話してたが
責任とかに厳しい唯の事だから婆さんと約束でもしたのだろう。
そこまで俺、まだ心配されてる?
「そう言えば唯の学校は海の方だったよな?」
「海と街の間にある山の上」
「海かぁ…行ってみたいなぁ」
「大量の塩水があるだけ」
「川と違って波があるんだろ?」
「内海だから変わらない」
会話はするがつっけんどん。
このいたたまれない状態でいるのはきついのだがどうも唯はそれでいいらしい。
駅に着いたらお別れなのだが。
「なぁ、唯」
「なんです?」
「今までありがとな」
「何を改まって言うかと思えば」
広げた扇子で口元を隠しつつ呆れた顔で唯がこっちを見る。
「俺、盆には帰ってくるからさ!」
「盆に帰ってくるのは幽鬼の類で結構です」
「そしたら、そしたら、一緒に海に行こうぜ!」
「2人で海ですか…」
「それか俺もお前も寮生活だから寮の友達とかを誘ってさ!」
考えこむ唯。
昔は水衣とかいうやつを着て川で泳いでた記憶があるけど
水着をというか水に入ってる唯をほとんど見たことがないような…
あ、風呂には入ったよな?となると…
「唯」
「あ、はい!」
吃驚した顔の唯にこっちも吃驚する。
「カナヅチでも俺は怒らないからな! あたっ!」
「泳げるよ!」
バシッと扇子で思いっきり叩かれた。
ちょっと直球で言い過ぎたかもしれない。
そうだ、唯に注目されないようにするなら…
「実ちゃん連れてきてもいいから! うっ!だっ!」
今度は扇子で往復ビンタされた。
「何故、実が出る?!」
「お、俺はお前の事を思って…」
「間違い!」
顔を真っ赤にした唯に叩かれながら駅が見えてきた。
こんな馬鹿が当分できないと思うと寂しいが
また会う日までと思うと今から待ち遠しくもある。
次会う時はより配慮の出来る男になってるとも期待して。


「あれ?」
何故か駅前で止まらずそのまま進んでいる。
「唯、駅通り過ぎたぞ?」
「そうでしょうね」
叩き過ぎて熱くなったのか扇子を本来の使い方をしながら唯が答えた。
「なんで?」
「用が無いから」
「用がないってお前…じゃあ、何処行くんだよ?」
「阿比樹学校」
にっこりと笑って唯が言う。
「そりゃお前の学校だろ?俺は…」
「はっはっはっ。耕太郎も一緒だよ」
「そんな事できるか!もうあっちに入寮だって決まってるのに!」
「うん、決まってるよ。阿比樹の方の寮に」
「ゑ?」
「入学の諸々の書類の手続きは済ませた。生活用品の手配はした。耕太郎の制服も準備した…」
唯は指折りながら確認するように言う。
「制服ってまさか…」
「はっはっはっ。まさかもなにも自分で試着して寸法も合わせたじゃないか」
「あれはむこうの制服で」
「ボタンが違うだけで同じだよ。ちなみにもう替えてあるから安心して」
「いつの間に?」
「お婆さんに頼んでおいたからね」
「婆さん何してんだぁ?!」
「お婆さんは喜んでくれたよ?これでお爺さんの看病に専念できると」
「それだったらむこうでも変わらないじゃないか」
「御両親からしてもどっちでも変わらないからと承諾を得てるよ?」
「親〜〜〜!!」
「まぁ平たく言うと”耕太郎だけ”が知らなかった、という事」
「そ、そんなの…」
嘘だと言いたかった。
しかし笑顔の唯がなんだか薄ら寒く感じて続けれなかった。
「でも、今回は大変だったよ?
 耕太郎が他所へ行くと知ってから父上に頼んで
 耕太郎と共に行ける高校を探して貰って尚且つそこに入れるようにしてもらい
 お婆さんとお爺さんに承諾を貰って、耕太郎にばれないように準備してたからね。
 本当は村から通える所が良かったんだけど
 結局それだと私の家から通う事になるから耕太郎が嫌がるしね」
なんでこいつは笑いながらこんな事が言えるんだ?
俺はこの数ヶ月騙されてたという事だよな?
それをこいつは…
「”私だけ”知らなかったから、これでおあいこ」
「何が?」
気付くと唯の笑顔は消え真面目な顔をしている。
「耕太郎は黙っていた、だから私も黙っていた」
「だからってここまで…」
「だったら!…だったら、言ったら耕太郎は行かないでくれた?」
「俺は…」
ここまでしてくれた唯には感謝はすべきなんだろうけど
なにかが引っ掛かって言い淀んでしまう。
「耕太郎」
「ゆ、うわっ」
唯が抱き着いてきてシートに俺を押し倒す格好になった。
「唯…」
唯の軽い体とあの匂いに包まれ車の天井は見えるが
右に唯の顔があるので表情は見えない。
「耕太郎…」
「なんだ?」
「もし…」
「もし?」
「もし、阿比樹に行かなくても良かったらどうする?」
「…」
「耕太郎が望むなら駅に戻ってもいいよ?」
「唯…」
「だからそれまではこのままで…」
天井を見ながらぽんぽんと唯の背中を叩いた。
それに反応してかぎゅっと唯の抱き着きが強くなった気がする。
「まさか、本当に私を捨てて行かないよね、耕太郎?」

とりあえず唯、駅に着くまでに俺が彼岸に着いてしまう。
俺は山の上から海岸が見たいんだ。

<おわり>







解説 中学パート。
高校入学前編の後編。
SS化の時に構成の変更をした。
一波乱の言葉でイベントは省略。
制服を買いに行く話だけでもこの前後編分を超えてたしなぁ…
とりあえずここまでのつもりで<おわり>
高校編とその後の唯が本懐を果たすまでの云々は打ち込む気力があったらここにでも。