素直クール

仮称)椿舞と武智 9

スレ 素直クールでエロパロPART14
No >>467〜>>469
日時 2010/12/24(金) 04:02:04
本文 電飾で煌く街中、恋人達やそうでない人達がそろそろ何処かへ向う頃。
とある雑居ビルの最上階は唯一の灯を点しており、
そこには2人いる。

「じんぐるべーる、じんぐるべーる、すずがなる〜」
この季節お約束の曲を口ずさみながらケーキを切っているのは椿舞。
「…はぁ」
うな垂れているのは武智公保。
武智は2時間程前の事を思い出しては後悔していた。
「あ、こんな時間だ。では、そろそろ…」
武智は腕時計を見ると同時に鞄を手に持ち、腰を上げた。
「ん?早くないか?」
椿は壁掛け時計を見ると同時に出入口に向った。
「先生、帰らせてもらえませんか?」
見下ろす形で武智は言う。困惑顔で。
「帰っても何かあるというわけでもあるまい?」
見上げる形で椿は言う。したり顔で。
「一度、社に寄りたいのですが?」
「来なくていいと奴が言っているはずだが?」
その奴こと編集長からメールで
「直帰せよ。面倒事、起すなよ?」
と着ているのも武智は確認済みである。
面倒事を起すとどうなるかも考えたくないが分る。
「まだ終電時間にも充分間に合う時間ではないか」
「そうですが、先程も申しました様に、今日で本年の業務も終了しましたので…」
「うんうん、お疲れ様。今年は何かと迷惑かけたね」
ぺこりと頭を下げる椿。
「いえいえ、こちらこそ御指導頂き…」
それに慌てて頭を下げるがはたと気付く武智。
「とにかく!これで失礼させてもらいます」
「まぁまぁそう急がんとちょっとした慰労会でもしようじゃないか?」
出入口に向う武智の腕に椿が絡みつき言う。
武智はにこやかな、それでいて何か怪しい笑みの椿を見てから
部屋をくるりと見て、再び椿を見る。
部屋の壁には綺麗に飾られた折り紙で出来た鎖、
ガラスにはジェル状の物でサンタ等が描かれており
先程まで座っていたソファーの横には電飾が点滅するツリー、
そして、目の前の見上げる眼鏡のひとは
頭に角のカチューシャをつけたトナカイの着ぐるみ。
「どう考えてもクリスマス会やる気でしょ?!」
「どうしてわかった?!」
「わからいでか!!」
「ばれてしまっては仕方ない」
椿は絡み付いていた腕から離れる。
「分って頂けましたか?」
「あぁ武智くん、お疲れ様…」
とぽとぽと離れていく小さな尻尾が愛らしいトナカイ、もとい椿。
その姿は罪悪感のようなものを武智に抱かせる。
「…先生」
思わずその背にかけた武智の声に椿は立ち止まる。
「私の事は気にする事はない、独りでできるさ。今までそうだったしな」
「…」
「じゃあ、また来年。よいお年を、武智くん」
そう言って椿は振り向き、いつもの微笑を浮かべる。
「よい…」
言いかけて武智は拳を握り締める。そして考えて言う。
「メリークリスマス、椿先生。ノンアルコールならお付き合いしますよ」
椿は言われてぽかんとしている。
一拍の間の後、武智と向き直り、跳び付く。
「武智くん!!」

宴は終了した。
椿は料理の後片付けをしている。
その後ろ姿を見ながらソファーに座っている武智。
椿はいいお嫁さんになる、と思う。
出された料理は一部を除けば数日前から準備していたらしく
味付けなどが好みでもあったがそれ抜きでも美味しかったし
今は腕まくりで洗い物をしている着ぐるみは
布等の素材集めから自分で作ったらしい。
ちんまい事を除けば顔立ちもスタイルも申し分ない。
これで作家でなければ…
「眠たくなったのかね?」
気付けばその椿が目の前にいる。
「うわっと。す、すみません」
「満腹で眠たくなったなら準備をするが?」
「い、いえ。満腹でも眠たくもありません」
「そうか?無理はいかんぞ?」
「大丈夫です。あ、もう、こんな時間」
時刻はそろそろ出ないといけない頃になりつつある。
「そのようだな、ケーキを切るからそれを食べてからでも…」
「いえ。もう充分御馳走を頂いたので。ごちそうさまでした」
「満腹じゃないと…」
「あ、そ、それは…」
しどろもどろする武智を見て、椿はふっと笑う。
「これ以上苛めても悪いな。エレベーターまで見送ろう」
「すみません。でも廊下は寒いので出口で…」
「今年最後だしな。それにこれは結構温かいのだぞ?」
と、ぽんと茶色い着ぐるみの胸を叩く。
「では、エレベーター前まで」
そして強制的に腕組をされた武智と椿がエレベーター前に着くと何かの音がする。
「あれ?ボタンに反応しない」
「ふむ。エレベーターが停止しているね」
「故障ですかね?じゃあ非常階段で降りていきます。
 それでは、先生、よいお年を!」
そう言って武智は非常階段のノブに手をかけ回すが…
「あれ?なんで?ロックがかかっている?」
「あぁ、どうやら閉鎖されてしまったようだねぇ」
「閉鎖?」
「年末だからね」
「えぇ〜?!どうにかならないんですか?」
「誠に残念ながら」
やっぱり困惑顔の武智、やっぱりしたり顔の椿。
「…先生、知ってたんですね?」
「私は何も知らないよ。
 しかし武智くんには悪いがこれは年末年始一緒に過ごすしかないなぁ。
 あぁすまないすまない」
「…すごい棒読みな感じがしますが」
「まぁこれも性夜の奇蹟。とりあえずケーキを食べ様じゃないか」
椿に背を押されながら武智は思う。
これは周到に用意された罠で自分はうまく嵌められたのだと。







解説 タイトルは「クリスマスの罠 T」