第24話

 令子が死んで一週間が経っていたが、恵子ちゃんは一度も来てくれなかった。雪子は、北海道の北村草太に手紙を書きながら、あの晩のことを思い出していた。それは、試合の翌日一人富良野駅に降りた草太を改札口で出迎えたとき、草太からつららとつき合った2年と8ヶ月、59年の4月までは雪子とは会わないことにしたと言ったこと。そして、その頃まだ自分がここにいるかと言っていたことをだ。

 雪子は、純や蛍はこの一年で富良野の住人になったが、自分はただの旅人で終わってしまったことを恥ずかしいと感じていた。翌日、純と蛍は恵子ちゃんの家を訪ねた。しかし、恵子ちゃんの家は取り壊されなくなっており、純はショックを受ける。そこへ、以前担任をしてくれた小川先生が声をかけてきた。純は、先生との再会に喜んだ。先生は、恵子ちゃんが父親の仕事の関係でアメリカへ行ったことを知らされた。純は先生の話が何となくつまらなく感じ、凉子先生のことを思いだしていた。この一年の麓郷での生活が自分を変えていたことに気づいていた。東京を発つ前日の夜、蛍が本の間から令子の書いた手紙を見つけてきた。それは、二人に宛てた手紙だった。今年の夏、令子が富良野に来たときの思い出が書かれており、「あんなに雲が綺麗だったこと」のところで筆は止まっていた。

 五郎は純と蛍を迎えに富良野駅に来た。そこへ、駒草のこごみが車の窓を叩いた。こごみは、知り合いを見送りに来たとのことだった。五郎が駅に入ろうとすると、改札口では会社の同僚たちが一人の男を見送っており、それをガラス越しに見ているこごみの姿を目にする。汽車から飛び降りた純と蛍はホームの階段を一目散に駆け上がり、五郎の待つ改札口に走った。麓郷に戻ると、完成した丸太小屋が純と蛍を待っていた。

 夜になって、蛍が以前住んでいた家を見たいと言いだし、三人で出かけた。純と蛍は、その家の変わり様に驚いた。ちょうど、最初にここへやって来たときと同じ状態になっていた。蛍は、五郎から裏の畑もめちゃめちゃだと聞き、畑を見に行く。純は家の中に入り、穴のあいた天井を見上げた。五郎は、純に令子が死んだことのつらい気持ちを話した。そのとき、外で蛍が呼んだ。行ってみると、三本足のキツネが来ていた。それは、蛍が餌付けし、とらばさみにやられたあのキツネだった。あのキツネが戻ってきていたのだった。その晩、丸太小屋で夢を見た。純は、夢の中で令子に手紙を書いており、それはこの一年の自分たちの生活について綴ったものだった。そして、「かあさん、雲が今日も綺麗です。母さんが見たっていう雲はわかりません。だけど、その雲を僕と蛍はどれだったんだろうとときどき話しており」と・・・・・・・。

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